【Kenshi 小説】太刀鋼―Tachigane―
――機械蜘蛛の打倒
叩きつけられる鉄の質量はおそらく俺の重さをゆうに超える。鈍く光る得物はそんな猛攻を曲がることも折れることもなくいなした。他の獲物がどうなのかは分からないが、爺さんから譲り受けたこの刀はあきらかに頑丈で、そしてそのことごとくを絶つ。
金属同士がこすれ合う甲高い音を鳴らしながら、両腕を流されて体制を沈み込ませた蜘蛛の横脚を切り飛ばした。そのままでは自由な両腕から反撃を貰う可能性があるため、俺はさらに胴を狙って太刀筋を這わせる。その動きに合わせるように、蜘蛛もまた反撃を試みてきた。
「シッ!」
俺はそんな蜘蛛の腕もろとも、気合いを込めて胴を薙ぐ。幾度となく殺されかけた蜘蛛の動きは十分すぎるほどに熟知できている。その集大成ともいうべき一閃が、蜘蛛の腕を、目を、胴を、そして残された脚を一直線に切り裂いた。
体の大半を切り裂かれた蜘蛛は、しばらくバチバチと放電を見せていたが、やがてそれもなくなると完全に沈黙した。
「……よし」
濃密な生と死のはざまを過ごしてきた時間は、確かに俺の糧(かて)となり技となって機械仕掛けの蜘蛛を討ち果たすに至れた。それもこれも鈍い光を湛(たた)え、静かにその瞬間を待ち続けている一振りの大刀のお陰だということも分かっている。
もはや欠片も動く気配を見せない鉄の蜘蛛を横目に、俺はただ静かに達成感で心を震わせた。
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