【Kenshi 小説】太刀鋼―Tachigane―
――皮剥ぎ族
奴らはまるで親しい友人のように話しかけてきた。
その異様な姿に警戒を抱かない方がおかしな話だが、奴らが被っている人の皮さえなければどこにでも居る機械の体をもったスケルトンなのだからかもしれない。俺には及びもつかない、人生経験のはるか先を歩く師匠がごく普通に受け答えしていたことが、むしろ自然に過ぎて異様だった。
「歓迎するよ、生身の兄弟」
にこやかに話しかけてくる奴らに笑顔を返す爺さんを見ていて、ふと気づいた。
もしかしたら爺さんにしてみれば、有象無象の些事に過ぎないのかもしれない。
いや、間違いなくそうだ。あの顔は聞いているようで聞いていない。こんなにも怪しい相手だというのに……というか怪しい相手だからこそ待ち構えている。
これはまずい。
話しかけてきた奴の後ろには、十数人の皮付きスケルトンが緩慢な動きで何かをしている。小刻みに揺れる爺さんの指の動き一つ一つが、奴らをスクラップにするための準備運動であることは間違いない。俺から見ても皮付きたちの動きはかなり洗練されているように思う。
俺よりもはるかに強い。
そんなのがワラワラ居て、今にも襲いかかってこようとしているこの状況からは、爺さんと過ごしてきたわずかな経験が風雲急を告げている。
「爺さ……」
「ちょっとその皮寄越せよぉぉぉぉォォォォォオオオオオオ!!」
そうだよなあ! 間にあわねえよなあ!!
きっと誰かのものだった人皮のすき間から覗く、無機質な機械仕掛けの眼光を怪しく輝かせながら、狂ったようにスケルトンたちは鋼鉄の棒を獲物に襲い掛かってきた。俺はもうすでに逃げの体制になっていたから分からないが、きっと今頃爺さんは口角を吊り上げて弾丸のように奴らを粉砕しているんだろう。
鉄と比喩されてきた得体の知れない謎の体術が数人をまとめて吹き飛ばして、相手が声を挙げる暇すら与えないまま四肢を軽々と寸断していく様子を、俺は逃げながら思い描く。
「あぐっ」
そんな想像をしていたからか、俺は後頭部に痛打をもらってそのまま昏倒した。
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