【Kenshi 小説】太刀鋼―Tachigane―
二つ目の階層は、より生臭くそして血に汚れていた。二つある部屋にはそれぞれ魚人共の寝床と、虜囚であったモノが朽ちて干からび、肉片なのか骨なのか赤黒く滲(にじ)んだポールに寄り掛かるように残された残骸たちの姿があった。魚人特有の据えた生臭い臭いに混じって、ほのかに漂う腐臭がつんと鼻腔を刺激していた。
妙にクリアな視界が恨めしいが、ここは奴らの餌場であり保管庫なのだろう。見ればいくつかの古代の保管庫には、捕って間もない魚が無造作に放り込まれている。クリアな視界と緊張感で高められた意識が、保管庫内部に魚に埋もれていたいくつかの逸品を知覚させた。
これは……ツいてる。
いつの時代に作られたのかは分からないが、明らかな出来の良さを見せるロボティクスの足を手に取りながら、俺は静かな感嘆を漏らした。あまりに滑らかな駆動は音一つ立てることが無く、機械特有の回転音が聞こえてこない。内部の構造ゆえに聞こえてくるはずの摩擦音もまるでなく、ただ鈍い銀の光を放つその姿は、伝え聞く伝説クラスの武具に匹敵するのではないかという予感に痺れる。
「ガァァァァァアアアアア!」
背後に魚人が出す警戒の叫び声を受けた俺は、慣れない盗掘で警戒を怠った己を叱咤した。
まただ、またやっちまったちくしょう!!
手早く背嚢(はいのう)に足を放り込みながら、俺は片手で愛刀を魚人に向かって一閃する。声を挙げてその勢いで突進を始めていた魚人は、まさかの反撃に逡巡しているうちに胴を上下に分断されて血しぶきをまき散らせた。
部屋の入口に差し掛かった俺は、壁を隔てたその先にはすでに新手の魚人が居ることに気付いていた。しかし、ここで立ち止まれば文字通り「袋のネズミ」にされることは疑いようもない。少々無茶ではあるが、俺は被弾を覚悟で入口へとさらに強く床を蹴り、その身を前へと晒した。
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