【Kenshi 小説】太刀鋼―Tachigane―
――魚人の島
ロイヤルバレーを西に抜けると、やたらと長い橋がある。遠目に見ればそれはまるで海を分かつ長大な境界線のようであり、海面すれすれに超然と佇(たたず)む姿は、そんな橋を渡る俺にしても静かな感動を胸に響かせてくるのだ。
「すげえな」
あまりにも素直な感嘆が口をつく。
背後にそびえる雄大な山脈が海面に映し出され、透き通るような青い空が白く輝く山頂を鮮やかに煌(きら)めかせて見えている。
……地獄すら生ぬるいこの世界は、どうしてかこんなにも美しい。俺の心が狂っているからこんなにも美しいと思えるのか、この世界が狂っているから美しいのか。俺にその判断はつけられなかった。
やがて数キロにおよぶ長い橋を渡り切ると、少し赤茶色掛かった荒涼とした大地が広がる。ここは魚人たちがその拠を構える生命豊かな島、通称「魚人島」だ。爺さんいわく「大したことのない連中」が巣食っているそうだが、相対した限りでは油断ならない相手だと感じた。
狙うは奴らの食料、そして……
「王を、狩る」
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