【Kenshi 小説】太刀鋼―Tachigane―
赤茶けてゴツゴツとした外骨格を武器に、明らかに雑魚とは一線を画した殺意を明確に叩きつけてくる個体。俺は爺さんがアルファと呼んでいたこの個体を、幾度か目にしたことがあった。
確かな実力を備えた異形の戦士。
雑兵が見せる稚拙な体術とは、別次元の技術をもつ上位種。
「好都合だ」
爺さんが姿を消してから一週間、そろそろ食料も心もとなくなってきた。鉄蜘蛛とまともにやり合えるようになったことで、ここから抜け出す目途もたってきたところだ。
「イギャアッ」
不意に俺の構える切先を左腕で払うと、そのまま平地を滑らせながらアルファの掌底が俺へと迫ってきた。俺は払われた刀に構うことなく、片手で持ち直した刀の流れに逆らわないよう身体を右へと回転させながらしゃがむ。カニのようなガーグラーの腕が俺の頭上を通過するなか、無防備に起点を残した足に俺は回転力を余すことなく足払いへと繋げる。
野生の生物のカンとでも言うべきか、アルファは俺の足払いを前方に飛んで転がるようにして回避した。ちょうど俺の左側にくるような位置取りだ。
「シッ!」
ただ、その方向にはすでに、躱された蹴り足の力をそのままたたえた俺の刀が迫っていた。
ギィンと鈍い音を響かせて、アルファの左腕がその場で綺麗な円回転を描く。絶たれた腕と胸の半ばまで達した刀傷がアルファの意識に及ぶころ、濁流のような血流が煙のように宙を染めた。
「……お前らを喰わせてもらう」
俺は新たな獲物として、魚人の住処を遠く見据えた。
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