【Kenshi 小説】太刀鋼―Tachigane―
――襲撃
「ついに来たか」
その懸念は常にあった。 爺さんが居たころは、俺が気づかないうちに片付けられていたようだが、居なくなった今いつかはやってくるだろうとは思っていた。
「フッ!」
簡素な板張りで作られた足場に、ただ広げただけの寝床から飛び起きると、その勢いのままに俺に襲い掛かろうとしていた魚人……ガーグラーの一匹に愛刀で切りつけた。太刀筋は頭部の上半分を綺麗に切り落とし、地しぶきをまき散らしながら俺が寝ていた寝具へと倒れ込んだ。
赤黒くきらめく毒々しい血潮でぬらされた簡素なベッドを横目に、俺は刀を正面に構えた。見回せばガーグラーは切り倒した個体を含めて四体。倒した一体と手前の二体は薄い茶色でいかにも雑魚だが、階段をゆっくりと登って来る個体はやや赤黒く、明らかに手ごわい印象を俺に与えている。
まごまごしている場合じゃない。驚いて体制が整っていない今この瞬間を逃すことなく、俺は立て続けに剣線をなぞった。
「グギャ……」
袈裟懸けに一閃。 続けて横なぎのもう一閃。
鉄蜘蛛すらたやすく断ち切る我が愛刀は、過(あやま)たず茶色ガーグラー一体の肩口から腰に掛けて駆け抜けると、そのまま横なぎでもう一体の上半身と下半身を分断した。その異常に上位個体とみられる赤茶ガーグラーは、声も発さず素早く俺の立つ足場へと到達し、目前へと相まみえた。
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