【Kenshi 小説】太刀鋼―Tachigane―
――修練
てらてらと鈍い輝きを放つ機械の腕を、痛烈な勢いで振り下ろしては俺の腕力のことごとくを奪っていく。マシンスパイダーの攻撃は常に苛烈を極めるが、この個体は比較的未成熟なのか、普段見慣れていた集団で行動しているスパイダーよりかは幾分、組みやすいと言えた。
そんなのは気休めに過ぎないが。
「あがぁっ!!」
しまった、やらかした。
余計な事を考えたせいか、刀での受けを誤って腕が折れたようだ。己の意思をまるでくみ取らず苦痛をまき散らしながら振り回される腕を無視し、痛みを気力でねじ伏せて残された腕でスパイダーの攻撃を凌ぐ。大振りをなんとかかわしたところで、俺は猛然とスパイダーに背を向けて走り始めた。虚を突かれたスパイダーは思い出したように追いかけて来ているだろうが、俺はスパイダーがそれほどしつこく追ってこないだろう事を知っていた。
「っはあ、はあ、はあ」
やがて這う這うの体で拠点のテントへたどり着くと、苦痛でうめきながらも無理やり折れた自分の腕をまっすぐに伸ばし、寝床で固定し横になった。一晩もすればくっつく。今夜だけの辛抱だ。
「……ぅぅぅ。ぐっ……」
分かっていても痛いものは痛い。食い物は一日一匹魚を食えればなんとか保つが、こんな訓練を続けなければならないことを思えば頭がおかしくなりそうだ。
それでも、しっかりと休まなければ生き残れない。
その夜は夢を見ることもなく、覚醒と仮眠を繰り返しながら体が治るのを待った。
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