【Kenshi 小説】太刀鋼―Tachigane―
――旅立ち
ざあざあと雨が降る。
爺さんがふいに姿を消してからもう三日が経つ。いきなり何も言わずにいなくなるなんてことはこれまで一度たりとも無かったから、何かあったのだろうということは理解できる。だが、あの爺さんに限って何かあるっていうのは本気で考えにくい。考えにくいのだがそろそろメシがない。
「マズイな」
声に出したところで、一向に獲れる気配のない魚を相手にどうにかしようという気も沸かなくなってきた。なにせ絶望的に漁が下手くそな俺は、いまだかつて一匹たりとも魚を手に入れられたことが無いからだ。獲れもしない物にいつまでも執着し続けるよりは、目の前に横たわる不毛の大地を生きながらえるための努力を始めなくてはならない。
方法は理解している。
定期的に歩いてくる蜘蛛の形をした機械を、倒せるだけの力を得ることだ。
ここらにはガーグラーと呼ばれる魚人が定期的に現れるのだが、そいつらを倒して食料を得るのが一番手っ取り早い。しかし、ガーグラーは群れるので、俺一人で戦うには地力が足りなさすぎるのだ。日々の観察のなかで、機械蜘蛛がガーグラーを軽く捻って倒せるだけの力を持っていることは分かっていたし、機械蜘蛛は定期的に動き回るだけで食おうとはしてこない。絶好のスパーリングパートナーというわけなのだが……。
「戦い方を間違えれば死ぬ。タイミングを間違えても死ぬ。何もしなければ確実に……死ぬ」
こうして、逃れられない戦いの日々が幕を開けた。
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