【Kenshi 小説】太刀鋼―Tachigane―
――追憶
背嚢に括り付けた古代の剣が、夕日を浴びて鮮やかな輝きを放つ。
魚人たちの返り血が付着していた服は、遺跡のチェストに仕舞われていた上等な服に着替え、背嚢に放り込んである。海で洗えばいいだろう。
魚人共が貯めていた食料も詰め込めるだけ詰め込んである。これなら当分は食料に困るようなことは無いだろう。あたりに転がっていた貴重そうな機器もいくつか放り込んでおいた。人里に向かうなら、爺さんとの生活には必要無かったcat(金)も必要だろうからだ。
……スラムで覚えたことがこんな所で役に立つなんてな。
遺跡で見つけたパーツは、俺がまだ炉端に転がるドブネズミだったころに、聖騎士の目を盗み高価で取引されていた代物だと記憶にあった。
「チッ」
幼少のころに味わった人生の汚濁が不意に脳裏をかすめ、思わず舌打ちする。今思えばどうしようもなく歪んだ世界だったと思うのだが、育ての親がアレだと考えてみれば、さほど違いは無いかもしれないと思い直した。強さが全てを肯定するこの世界においては確かに正義であり、それでもなお何か足りない物をあの爺さんは俺に与えてくれていた。
あの爺さんが気にしていた魚人の王を屠(ほふ)った今、いったいどんな言葉を寄越したんだろうか? なんて考えてしまうのも、爺さんと過ごしたわずかな時間がそうさせたのかもしれない。
『やるじゃねえか』
「……だろ?」
鉄拳ジジイの笑顔が見えた。そんな気がした。
第一部 完