【Kenshi 小説】太刀鋼―Tachigane―
(存外に丈夫なんだな)
などと場違いな感想が、魚人の王を前に飛び出す俺自身と相棒への評価だった。意外なほど冷静に、静かに全力で飛びかかる己を俯瞰(ふかん)したような奇妙な感覚に囚われる。しかし、きわめて明晰な視界と意識に若干の戸惑いを覚えながらも、思うがままに相棒を王の剣線に添えられる全能感と多幸感が心中を満たしていた。
魚人の王より刹那の間合いで繰り出される圧倒的な剣筋の尽くを、最小限の動作でいなし、受け流し、捌ききる。その行為そのものは必然であり、結果でしかない。そんな泰然とした振る舞いに誘われるようにして剛剣を振るう王。さながら完成された剣舞のような巨人と小人の剣戟は、あきらかに王の焦燥を募らせていた。
「ガァァァァアアアアアア!!」
ついに痺れを切らした王がその体を存分にぶつけるかのように、突撃の体制で渾身の水平切りを繰り出した。この狭い空間できわめて低い位置から壁ごと切り裂きながら迫る大剣は、後ろに下がる間も与えられなくなった俺に選択を迫ってくる。
「――ァ」
普段よりも若干、色素の薄い光景のような緩やかな視界の中で、俺は迫りくる剛剣への最適解を導き出す。ほんの少しだけ押し上げるように相棒を添え、潜り抜けるように前へと踏み込んだ。
猛り吼える王の表情が戸惑いを見せるが、結果下から掬い上げる様な剣筋を描いて斬撃を放つその瞬間に、俺の相棒は王の身体を上下に分断した。
解き放たれた上半身は剣の重さと遠心力によって、そのまま円を描いて臓物を撒き散らしながら吹っ飛んで、そして落ちた。
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