【Kenshi 小説】太刀鋼―Tachigane―
「ガアアアアアァァァァァァァァッッ!!!」
びりびりと鼓膜を叩く武威の咆哮に、動きを止めた王へ一撃を見舞ってやろうとしていた俺の身体は、半ば強制的にその動きを制約される。つんのめるように前傾した死に体を逃すことなく、王は容赦のない一撃を膂力のままに振りぬいてきた。
これはダメだ。
死ぬ。
視界は急に王の剣先へと集められ、切り出そうとしていた相棒を、自らの体に這わせ盾のようにして王の攻撃を防ごうと試みる。刃渡り精々が80cmほどで、厚みもない薄い刀で王の振るう鉈(なた)のような大業物の一撃をふせげるのかどうかなど自明の理ではあったが、その瞬間の俺にはそれ以外の手立てが何一つ残されていない。
次第に近づいてくる、魚人ごときの王にはもったいないほど美しく、白銀に輝く剣線はあやまたず俺の相棒の待つ胴へと吸い込まれ、そして。
「こひゅっ」
入口付近で戦っていた俺と相棒は折られることなく廊下の端まで弾き飛ばされ、叩きつけられた。奇しくも俺が捉えられた時のように容赦のない万全の一撃だった。幸いにも意識が飛ぶことは無かったようだが、望外の膂力に叩きつけられた俺の体は限界の悲鳴を耳障りに叫んでいる。わんわんとうねる様に響き渡る警笛にも似た余韻が、立ち上がろうとする俺の動きにさらなる制約を施していた。
しかし、そんな事に構っていられる時間はない。奴の移動する振動が、俺の倒れ伏している床から微かな振動となって伝わってきている。抵抗する両足を無理やりに引き寄せ、己の意思のままに力を込めて、俺は再び王に向かって跳ねた。
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