【Kenshi 小説】太刀鋼―Tachigane―
一人、また一人と血だまりに沈む魚人たちを順に牢へとつないでいけば、気づけばこれ以上繋げられる鎖がのこっていないまでになっていた。
「頃合いか」
奴らのわずかな知性で理解できているのかどうかも疑わしいが、少なくともこれで王の取り巻きのほとんどを刈り取ったことになる。ずいぶんと物寂しい王座にその顔でも拝みに行くべき時が来たかと思っていれば、階上からひときわ重量感を感じさせる足音が聞こえてきた。
素材はなんなのか変わらず分からないが、頑丈な作りの遺跡をすこしばかり軋ませるほどの生命体など、いまのこの現状において一つしか思い当たらない。その巨体を存分に震わせながら、魚人の王は部屋の惨状を見渡した。
「ハァッ」
馬鹿正直に正面から挑むなどという愚かな真似をするつもりはない。膂力(りょりょく)も体格も甲皮の頑丈さすらも、すべてにおいて相手が上回っていることが理解できる相手に、正攻法で挑むなど愚の骨頂だ。極力気配を消しての一刀だったが、わずかに漏れた裂帛(れっぱく)の気合いが、相手にほんの少しの猶予をあたえる結果となった。
「ガアアアアアアァァァァァァァァ!!!!!」
左足の太ももを中ほどまでに切られ、王は怒りの咆哮とともに背負っていた剣を振り回した。下手に剣を合わせればやすやすと弾き飛ばされることは目に見えている。俺は慎重に王の放つ剣先を見極めながら、王の剣によって切り飛ばされた壁片が瞬く間に生えていく様子を横目に算段を練った。
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