【Kenshi 小説】太刀鋼―Tachigane―
「痛うっ!」
まるで岩を直接殴りつけたかのような鈍い痛みが、殴った俺の手の方にじんじんと残されている。こんな痛みを殴るたびに貰ってちゃ先にダメになるのは俺の手だ。ただでさえ危機的な状況だってのにと、ますます追い込まれる内心をよそに、俺はさらに拳打を繰り出す。
ここで止まればただでさえひどい状況が、さらに悪化するのは目に見えている。立ち止まるわけにはいかない俺に残された選択肢はいずれにしても一つだけだ。
「うらぁっ!」
血まみれになった顔をこちらに向け、ギィと唸りだしそうな魚人の口に靴底を食らわせて黙らせる。鋭くとがった円状に生える牙は極めて危険だが、しっかりと作られた底の厚い、爺さんお手製のアドベンチャラーブーツは確実に魚人のあごへとしたたかな打撃を与えられたようだ。魚人は声を挙げることすら許されないままに、くぐもった悲鳴をこぼしてその場でたたらを踏んだ。折れた牙が口内に刺さって、これ以上声を挙げることは難しそうだ。
さらに畳みかけるように、俺は左右の側頭部から両脇下を抜き手で破壊し、足の膝関節を蹴りで折り砕き動きを止めた。一度動きを止めさせてしまえばあとは淡々と急所と動作部を破壊するだけでいい、とは爺さんの教えだった。
最後に倒れた魚人の首を蹴り下ろしで踏み抜き、とどめをさして一息を吐く。
「すぅーーーっ、はぁーーーー……」
息吹(いぶき)と呼ばれる呼吸術で乱れた呼吸を手早く整えながら、俺は自分の現状を改めて確認した。
獲物を取り戻し、食料を得て、あのデカブツを殺す。
そのためには……。
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