【Kenshi 小説】太刀鋼―Tachigane―
隣のポールに繋がれていたシェクの男は、すでに下半身が無い。最上階に玉座を構える王の取り巻きたちが、定期的に食いに来るからだ。
俺に繋がれた両腕の枷はすでに外してあるが、奪われた相棒の入った保管庫まで取りに行く隙がなかなか生まれない。
このままじゃ俺まで食われる。
充満する血の匂いにはすでに慣れている。交代で、時に複数で現れては順序良くシェクの亡骸をむさぼる姿はむしろ滑稽ですらあったが、とにかくいかに抜け出し、この状況から脱出するのか。奴らは昼夜を問わず交代し捕食を続けている。
まったくの間隙はない。
――やるしかねえ。
俺は奴らが交代するタイミングにあわせてそっと枷から腕を抜く。一匹だけが餌に集中している瞬間が最善だと判断した俺は、食い終わった魚人が姿を消し、食事中の魚人が何度目かの咀嚼(そしゃく)をした時を見計らって行動を起こした。
しばらく同じ体制を続けていたからか、堅くなった身体に一抹の不安を覚えるものの、思い描く最高の動作をなぞるように滑らかな軌跡を辿った。
爺さんが得意としていた抜き手を、魚人の延髄めがけて叩きこむ。
顔半分を咀嚼していたシェクの体へめり込ませた魚人は、どうやら意識はつなぎ止めたままのようでふらふらと体を泳がせたものの、すぐさま体制を整えるべく腕を振る。俺はそんな時間を魚人の意識ごと潰すべく、全身に力を漲らせてさらに前へと踏み込んだ。
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