【Kenshi 小説】太刀鋼―Tachigane―
先頭を走るのは斥候を担う魚人だ。多くても3~4程度で、本体は斥候の動きにそれほど頓着はしない。するのは声を上げて呼び合った時だけだ。下級個体がほとんどだが、まれに上級個体が斥候を担う場合もある。
集団を率いる個体についても、必ずしも上級個体というわけではないようだ。その時々でリーダーは違っていて、いずれの場合もリーダーが呼応した場合は全体が反応して事に当たる。常に島中を走り回りながら、獲物の探索と捕獲を繰り返し、帰属している集落へと運搬を繰り返しているのだ。
「つまり、探査集団を背後から切り崩し続け、ある程度集落の個体が減ったところでまとめて叩けばいい」
方針を決めた俺は、もはや自分を高めるための餌として魚人共を認識していた。方針がきまれば、あとは実行するだけだ。
集団の魚人は多ければ30体ほどだが、10体ほどの少ない集団であればリーダーを挑発して島の周回外へと引き連れれば邪魔も入らず殲滅できた。少々の怪我はすぐに治るが、痛みを克服することができたのは僥倖(ぎょうこう)だった。わずかな痛みに気を取られれば動きは鈍り、単体を相手している時に比べて被弾率が上がる。数的不利はすべてにおいて俺の命を削るために作用するのであれば、そうした条件を克服するしかなかった。
やがて島をぐるりと取り囲むように、繰り返し集落を潰していた俺の視界に入ってきたのは、夕暮れの海に照らし出されるように佇む遥か古代の建造物だった。
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