【Kenshi 小説】太刀鋼―Tachigane―
――伏龍
再び末枯れた大地と、砂煙を上げながら走り抜ける魚人たちの姿が視界に映る。爺さんの言ってたことを思い出しながら、目的を成すための道筋を描く。
”勝つために戦うんじゃない。 勝つ戦いをつくるために考えろ”
いつかの皮剥ぎ盗賊を前にした、爺さんの不敵な笑みが脳裏に浮かぶ。油断なく見据え、位置を把握し、制圧の手順を瞬時に判断し、躊躇(ためら)うことなく思い描いた通りに実行するあの常軌を逸した圧倒的な武。そこに至るまでの道程のなんと過酷なことか、と眩暈(めまい)を起こしそうだが、いまは目下に広がる食糧問題解決手段を描かなければならない。
「腹減った……」
あの場で魚を投げなければ食われていたのは間違いなく俺自身だったとは思うのだが、せめて一匹くらい残していてもよかったんじゃないか。そんな後悔が言葉になって思わず漏れ出てしまう程度には余裕があると言えなくもない。
兎にも角にも、俺はすきっ腹を抱えて魚人たちの行動パターンを把握するために、小高くなっている丘から、こっそりと監視を続けた。やつらの動きを丸一日観察していて気づいた事を考察するんだが、ときおり偵察なのか2、3人だけの下級個体が、俺の居る場所にまで走ってくることを除けば、どうやら決まった道を繰り返しているだけのようだ。
空腹に耐えかねてなで斬りにした魚人を解体し、焼いてなお異臭を放つ肉を喰らう。
存分に高まりを見せる意識は研ぎ澄まされ、周囲に点在する集落を切り裂く剣となるべく俺の本能が猛る。辛酸がごとき魚人の肉は糧だ。やつらを砕くための礎だ。
「ふぅぅぅぅ」
その瞬間を見定めながら、俺は内なる熱をゆっくりと吐き出した。
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