【Kenshi 小説】太刀鋼―Tachigane―
「っだあっ! ちくしょう!!」
橋を渡り切り、ロイヤルバレーの大地でアイアンスパイダーの群れに魚人たちを擦り付けたまでは良かった。問題はその直後に、今度はサザンハイブがそこに姿を現したことだ。
奴らは屈強な戦士たちで構成された戦闘集団で、鉄蜘蛛と魚人をあっというまに片付けると、さっさと逃げ出していた俺へと注意を向けてきた。
たしかに実力はそれなりに付いたと自負はあるが、奴ら相手は無理だ。あまりにも分が悪い。
爺さんが喜んで相手するような連中だ、といえば分かるだろ?
化け物のスパーリング相手に選ばれるようなやつらを相手なんてしてられるはずもない。一も二もなく逃げ出したんだが、どうやら運悪く目をつけられたらしい。サザンハイブの紫がかった鎧を背後に感じながら、魚人どもよりも遥かに厳しくなった追随をどうやってかわし切るのかを必死で考える。
なにかをしきりに訴えながら追いすがってくるサザンハイブの戦士は一人。他にいた数名のハイブは、始末した魚人を片付けているのだろうか追ってくる様子は無かった。

「グリィィィッッ!!」
……話が通じるような相手じゃない。ここは逃げの一手しかない訳だが、いったいどこに逃げればいいのか。そんな俺の脳裏にふと妙手が思い浮かんだ。
「おらよ!!」
俺はバックパックからなけなしの魚を掴むと、あとわずかにまで近づいていたサザンハイブの兵隊に見せびらかすように投げつけた。
「ギィ!?」
埒外の行動だったのか、はたまた好物の魚の登場に意表を突かれたのか、俺の目論見どおり兵隊は飛んできた魚をうまくキャッチすべく足をとめることになった。その隙にさっさと逃げ出すことに成功した俺は、ますます追い込まれた食糧事情に頭を抱えることになるのだった。
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