【Kenshi 小説】太刀鋼―Tachigane―
「ちょ、っとこれは。 洒落に、なんねえな」
茶褐色の甲殻をもつアルファ個体を先頭にして、さながら魚鱗のように連なる魚人たちを背後に抱えた俺は、島を東へただひたすら走っている。魚人たちの動きはかなり統制がとれており、まるで一つの大きな生き物のように追随してくる。その「集団の強さ」を見誤ったために、今こうして逃げ回っているのだから笑えない話だ。
途中、甲殻生物の大型カニの集団をすり抜けるように走ることで、魚人たちの食欲を刺激させてやるのだが、どこからともなく新手が現れるので一向に減る気配が見られない。この速度であればどこまでも走り続けられる自信はあるが、はたして限界を迎える前に逃げ切れるのだろうか?
「……しかたねえ」
新手が現れるのであれば現れない場所に行けばいい。
幸いにもそろそろこの島からロイヤルバレーへと抜ける長大な橋が見えつつある。あの橋を渡れば少なくともこれ以上の魚人たちが加わって、この滑稽ともいえる謎の隊列を組む必要性はなくなるだろう。
まったく。爺さんの小言が聞こえて来そうだ。
(ほれみい、ちゃんと見とらんからこうなる)
「うるせえ!」
ヒリヒリと痛む腕に顔をしかめながら叫ぶ。イラつきはその痛みのせいなのか、はたまた後悔とも羞恥ともいうべきか。おそらくはその両方からくるものだった。
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