【Kenshi 小説】太刀鋼―Tachigane―
――窮地
マズった。
これは相当にまずい状況だ。
あたりを警戒に向かったのか、俺を杭(くい)状の牢に括り付けた魚人はそのまま歩いて行った。ほんの3mほど離れた場所で生魚にむさぼり付いている個体を除けば、この集落のほとんどの魚人が出払っているようだ。
今ならなんとかなるかもしれない。
俺は括り付けられた腕をなんとか外せないかと手を尽くしながら、自らの至らなさを思い返す。
驕(おご)っていた。
機械蜘蛛を単独で相手できる実力、上級個体を下せる地力。そうした積み重ねが、それを成しえた自信が、驕りとなって俺の心に隙を産んだ。下級個体が何匹現れようと物の数ではない、そう思ってしまった。
「クソが……!」
傷つくことを恐れず、遮二無二襲い掛かってくる魚人の群れに囲まれて、さばき切れなくなった殴打を無視しえないほどに浴びた時、俺はようやくその事実に気づいたのだ。痛みと己の愚かさに顔を歪めながら悪態をつく。腹と頭にしこたま殴打を食らった俺は気を失い、奴らに担がれて虜囚に甘んじる結果となった。
指先を紫に染めながらもなんとか戒めを解除した俺は、だだっ広い平野に建てられた他の杭に繋がれたまま食われたであろう風化した腕の人骨を見る。おそらくはハイブの虫たちの遺骸だろうか? 散らばった複数の残骸を見ながら、脱出への算段を見据えていた。
次ページ↓