【Kenshi 小説】太刀鋼―Tachigane―
赤茶けた大地を走る魚人の群れは、立ち上る砂埃を巻き起こしながらピッケルのような島のあちらこちらに集落を形成している。その中心には遺跡を利用した巨大な巣があるらしいんだが、さすがに危険すぎて爺さんが俺を連れてそこまで足を伸ばすことはついぞ無かった。
だが、爺さんが昔、奴らの王が素晴らしい剣を持っていると言っていた。
海の狩人としても優秀だと聞いている事もある。どうせなら奴らの食料を奪いながら、王とやらに相まみえてみるのも一興だ。
……どこに行ってしまったのかは分からないが、強者に挑み続けることが最短の道なんだろう。
「……チッ、俺も救えない阿呆だ」
その背中ばかりを眺めてきたからだろうか。
爺さんが追い求めていた強さの本質がどこにあるのか、何を指すのか、どんなものなのか。たった一人で走り続け、なんの気まぐれで俺を拾うことにしたのか。さまざまな疑問は目指すべき道程へと姿を変え、まるで爺さんの後を追いかけるように走り出そうとしている俺の心構えにそう自嘲した。
「いくか」
島の隅に小さな寝袋と焚き木を用意すると、俺は島の外周へと歩を進めた。
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